それなりの訳がある

　デパートで「シューカツの服ありますか？」と訊ねられた事がある。はあ？　一体どこのプランド名だ、と思っていたら就職活動用のスーツの事らしく、別の人が場所を案内していた。その友達同士のような親子連れを見ながら、オレは心の中で服を買う前にまず社会人としてやるべき準備があるんじゃないだろうかと思っていた。

　で、だいぶ前に母上の同僚の娘さんと話した事を思い出した。事務の先輩がいわゆるお局様的性格らしく、物知りですごいイヤミなのだそうだ。
「ああ、知識をひけらかすタイプね」と言ったら、
「ひけらかすって何？」と、その２０代の社会人一年生はのたまった。
「……私はこれだけ知っているのよって、自慢する事」
「うんうん、そんな感じ」
　話は続いていたが、オレは心の中でそのお局様に同情していた。実際にこの子とその人がどんな性格なのか、どんな会話をしているのか知らない。しかし、こういう子を一人前の社会人に育てなければならない手間を考えると、涙が出そうだ。オレなら謹んでお断りする。

　知らない事が悪いんじゃない。判らないかったら何でも聞けばいいさ、失敗する前に。でもさー、オレの予想からすると、相手の都合もおかまいなく、取引先の電話でも遠慮なく訊ねていそうでコワい。清少納言（だったか？）も書いてるじゃないか。気違いの真似をするぞと言って大通りをわめいて走ったら、それはもう気違いなんだと。

　バカだと思われたくなきゃ、あとでこっそり辞書で調べるとか、話を合わせておくとかやりようがあるだろうに。まあ、それも程度があるけど、くやしかったら意地ってもんを見せて頑張ってみろ。